Perfumeを筆頭に、BABYMETALのSU-METAL、元モーニング娘。の鞘師里保など世界に名だたる多くのアイドル&アーティストを輩出し続けている、アクターズスクール広島(ASH)。今回は、卒業生で初めて声優アーティストという道を進んだ吉武千颯に、現在の仕事について、そして在校中のエピソードを聞いた。
吉武千颯(よしたけ・ちはや)
1999年3月28日生まれ。28期生。声優アーティスト。主な出演作品は「ラブライブ!スーパースター!!」聖澤悠奈、「ヒーラー・ガール」矢薙ソニア、プリキュアシリーズの主題歌を担当、コーラスユニット「ヒーラーガールズ」としても活動中。
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公式Instagram:https://www.instagram.com/chihaya_yoshitake_official/
ダンスを続けたかった一心で入校
──ASHでは、何期生に当たりますか?
28期生で、いま活動をしている子だと八木海莉が同期です。仲がよかったのはDクラスで一緒だった、今村美月ちゃん、山本杏奈ちゃん、由良朱合ちゃんたちで、いつも一緒にいましたね。
──何歳のときに入校しましたか。
中学2年生でした。父が転勤族で当時は高知県に住んでいたんですけど、小学5年生のころからやっていたダンスは広島に引っ越してからも続けたくて、お母さんが見つけてきてくれたのがASHでした。別にお母さんも芸能界に入ってほしかったわけではなくて、シンプルに通いやすい場所にあったんです。
──吉武さん自身も芸能の世界に興味はなかった?
当時はなかったですね。将来は、保育士さんかダンスのインストラクターになりたいと思っていました。でも、入ってみるとまわりのみんなは目標を持っているじゃないですか。なので、私も少しずつ意識しはじめて。当時は声優さんという考えはなくて、憧れていたPerfumeさんのように、歌って踊れるアーティストやアイドルを目指すようになりました。
──入校してすぐの時期は、まわりとのギャップを感じませんでしたか?
どちらかというと歌が苦手分野だったので、入学オーディションのときにマイクを持って課題曲を歌うのに抵抗がありました。
──そういう状況から、スイッチが入った瞬間は?
ダンスを続けたかった一心で入校したんですけど、ユニットオーディションなどに合格をしないと発表会で出演できる曲数が増えないので、そこからだんだん燃えてきたというかスイッチが入ったような気がします。
──負けず嫌いなところがあるんですかね。
ありましたね(笑)。常に戦わなきゃいけなかったので、まわりのみんなは仲間であり、ライバルでありという関係でした。あまり表に出すタイプではないと思いますけど、私の素を知っている人たちからは「負けず嫌いだよね」ってけっこう言われますね。
メロディもですが、歌詞の意味も大事にしたい
──在校中で印象に残っていることを教えてください。
ありすぎるけど……やっぱり発表会で披露するソロに初めて受かったときのうれしさはいまだに覚えていますね。2015年のAUTUMN ACTだったんですが、aikoさんの「瞳」を歌いました。いままでにないくらい緊張していたんですが、両親はもっと緊張していたみたいで「ちゃんと歌いきれるか心配で吐きそうだった」っていまだに言われます。
──なぜこの曲を選んだんですか?
歌詞が大好きだったんです。私はメロディもですが、歌詞の意味も大事にしたいと思っていて。あとはお母さんも好きな曲というのが大きいです。いつも発表会を観にきてくれていたので、恩返しではないですけど、この曲で初ソロをとって届けられたらいいなと思って。捉え方は人それぞれだと思いますが、私はこの曲が“お母さんから子供に向けて歌われてる曲”だと思ったので、そういった温かさを出せるように歌いました。
──先生とも相談しながら選曲するのでしょうか?
はい。クラスのボイスレッスンのほかに、個人のボイスレッスンで田中(都和子)先生に見てもらうんです。ソロオーディションの前になると何曲か候補を持っていって、いつも一緒に決めていました。
──田中先生のアドバイスで覚えていることはありますか?
私は事務所に所属してからもしばらく広島にいたので、その期間に一度ASHでレッスンをしてもらったんです。そのときに「マジで千颯、音痴だったよね」って言われました(笑)。本当に音程が取れないくらいだったみたいで。
──レッスンは厳しかったですか?
厳しかったですね。私がソロで受かる楽曲はほとんどバラードだったのですが、私が大切にしたいと思っている“感情を込めて歌う”ということは重視して見てくれていたのかなと思います。田中先生がいなかったら、いまこうして声優アーティストとして活動できていなかったと思うので、本当に感謝しています。
ASHのトップダンスユニット「最強」
──ダンスのレッスンに関してはどうでしたか?
高知県にいたころは、ずっとよさこいやジャズダンスをやっていたので、アイドル系の振りはまったくやってこなかったんです。だから“自分を見せる”というダンスはASHに入って初めてやったので、すごく勉強になりました。
──それまでのダンス経験も活かされましたか。
そうですね。ダンス経験があったのでダンスはよかったんですけど、歌の担当パートはまったくないという状態がCクラスのころはずっと続いていて。当時は歌への苦手意識があったので、ここでがんばらなきゃという思いは強かったと思います。
──やっているうちに歌も好きになれましたか?
そうですね。本当にやっているうちに好きになりました。いま、ヒーラーガールズというコーラスユニットをやらせていただいているんですけど、ASHにいたころハモリは全然できなくて……。歌い方にめちゃくちゃクセがあったらしく、誰かと一緒に歌うことができませんでした(笑)。
──ダンスの先生は、主に誰に見てもらっていたんですか?
「最強」というダンスグループがあって、そこにずっと入っていたんですけど、そこではAYAKI先生でした。でも、クラスはMOMO先生でしたし、「P企画」ではクリス先生のときもあったし、本当にいろいろな方に見ていただいていましたね。
──「最強」 はASH内のダンスのトップチームですか?
そうですね。最強のダンスチームを作るというコンセプトのユニットで、半年か1年に1回のオーディションでメンバーが決まるんですけど、お姉さん組のBと小さい子たちのAのふたつに分かれていました。いまはちょっと違うかもしれないですけど、当時はそれぞれ6〜7人くらいのメンバーがいましたね。本当にダンスが上手な子しかいなかったから、最初はついていくので必死でした。
──昔からあるユニットなんですか。
私がASHに入ったときからあって、最初はAチームに受かったんです。そのあとBになったんですけど、そのときのメンバーが強すぎたんです。私はまだCクラスだったんですけど、花岡なつみちゃんとかDクラスのお姉さんさんたちしかいなくて、みんなめっちゃうまくて。しかも、AYAKI先生の振りだからめちゃくちゃ難しいし、レッスンのたびに「がんばらなきゃ……」って。めちゃくちゃ楽しかったけど、めちゃくちゃ大変でしたね。
常にベストの状態でいなければいけない
──ほかに印象に残っているレッスンはありますか。
抜き打ちテストですね。日曜日にクラスレッスンがあるんですが、いきなり先生が入ってきて「いまからテストするよ」って。立ち位置も歌い分けもそのテストで決まるので、たとえ前の週に休んでいても、振りを覚えてきてなかったら立ち位置はうしろだし、歌も練習してきてなかったら終わり。ハモリも先生が教えてくれることはなかったので、自分たちで原曲を聞いて取っておかないといけないみたいな。それはすごく苦手でした。
──かなり鍛えられそうですね。
めちゃくちゃ鍛えられました。常に自分がベストの状態でレッスンにいないといけなかったので、いまだにそういう体になっているというか。常に準備をしておくことが習慣づいているのは、ASHのおかげかなと思います。
──ちなみに、そういう抜き打ちテストに強かった人っていますか?
私のイメージだと、(段原)梨里ちゃんとみちゅ(今村美月)はパッと音を聴いてハモが取れるタイプだったから、やっぱり歌い分けも多かったし、すごいなと思っていました。 基本的には「どうしよう!」「できません!」みたいになってしまう子はいなくて、みんなそれぞれが毎週準備をしてきている印象でした。
──ASHではユニットでパフォーマンスをすることも多いですが、印象に残っているものはありますか?
ユニットオーディションで組んだ「LUSH」というユニットはダンサーとボーカルに分かれていて(米田)みいなとか、杏ちゃん(山本杏奈)とか、るーちゃん(土居瑠利茄)とか、(段原)梨里ちゃんたちと一緒にやっていました。ユニットオーディションは立ち位置も歌い分けもハモも全部自分たちでつけて、それを先生に見てもらって合否が決まるので、やっている時間は大変だったけど、めちゃくちゃ楽しかったですね。当たり前だけど、オーディション自体はびっくりするほどガチだし、1回のユニットオーディションでひとりにつきふたつのユニットしか受けられないので、メンバーを決めるときもみんな本気で。だからこそ一緒に合格できたときの喜びは大きくて、みんなで大泣きしながら抱き合うぐらい熱かったです。本当に青春ですね。
──ASH時代の仲間はどんな存在ですか?
スクールの友達は学校の友達とはまた違った感覚で、唯一無二の存在というか。こうやってバラバラに活動していても、みんなの活動に刺激をもらって自分もがんばろうって思えますし、いてくれることに本当に感謝ですね。
──上京しているメンバーと東京で会うこともありますか?
このご時世でいまはなかなか会えないですけど、上京したばかりのころは山本杏奈ちゃんとご飯に行ったりしてました。広島へ帰ったときはスケジュールが合ったメンバーと集まったりしてます。
──ASH時代に憧れていた先輩はいますか?
なったん(花岡なつみ)ですね。踊れるし、歌も上手だし、キレイだし、プロ意識もめちゃくちゃ高い方で。同じDクラスになってからも、ボイスの時間に自分たちで円になってやるときの中心はなったんだったし、憧れの存在でした。
──中元すず香さんのような大先輩たちの活躍はどう見ていましたか?
在校期間がかぶっていなかったので、すごく遠い存在ですね。事務所に入ってから何度かBABYMETALさんのライブに行かせてもらって、最初に見たのがすず香ちゃんの20歳の誕生日だった広島公演でした。ライブの世界観も迫力もものすごくて、やっぱり憧れだなあって改めて思いました。
「そんな声なんだから、声優さんはどうなの?」
──そして、2017年に開催された声優アーティストオーディション「ANISONG STARS」で審査員特別賞を獲得したことで、声優アーティストとしての活動がスタートします。どういった経緯で受けようと思ったんですか。
いろいろな事務所やアイドルのオーディションを受けてきたんですけど、全部落ちていたんです。スクールにはオーディションの案内がいろいろ置いてあるので、レッスンが終わってそれを見ているときに事務局のスタッフさんから「千颯ちゃん、そんな声なんだから声優さんはどうなの?」って言われたんですよ。ASHの卒業生で声優さんはいなかったし、正直そのときは想像もつかなくて。
──目からウロコというか。
本当にそんな感じでした。いろいろ調べたら声を当てる仕事だけじゃなく、ステージでパフォーマンスをしている方も多いと知って、そこから声優系のオーディションも調べて受けるようになったんです。
──アニメは観ていたんですか?
プリキュアは小さいころに見てましたし、ジブリやディズニーも好きだったんですけど、小さいころからダンスと歌のレッスン漬けだったので正直、がっつりアニメに没頭する時間がなかったんですよね。
──それまではずっとアイドル志望で。
はい。あとは芸能事務所の所属オーディションを受けていて。アイドルでは鈴木愛理さんが好きなんですが、昨年「アニサマ(Animelo Summer Live)」にヒーラーガールズで森口博子さんのバックコーラスとしてシークレット出演させていただいたとき、リハーサルに鈴木愛理さんがいらっしゃったんですよ。もちろん声なんてかけられなくて「いる!」と、ただのファンになっていました(笑)。
これで最後と思って受けたオーディションに合格
──「ANISONG STARS」のオーディションがあった2017年は、STU48の結成年でもあります。ASHからデビューしていく人が多かった時期だと思いますが、どんな雰囲気でしたか?
仲がいい子や、自分よりも年下の子たちがどんどん卒業していくのは、うれしい気持ちもある反面、もちろん悔しい気持ちもありました。もっとがんばらなきゃっていう気持ちだったり、もう無理なのかなって思っちゃうこともありました。
──「ANISONG STARS」を受けたのは、吉武さんが18歳のときでしたね。
はい。そのとき短大に通っていて進路というか、これからどうするかを決めなければいけなかったので、これを最後のオーディションにしようと思って受けたんです。これでダメだったら芸能界はあきらめると決めて。
──学校にも通っていたんですね。
はい。オーディションに受かって事務所へ所属することになってからも、しばらくは広島に住んでいたので短大も行っていたんですけど、飛行機で東京に毎週通いながら、広島で保育学科の実習もやってとスケジュールがハードになってきて。家族も「もう東京行ったら?」って感じになったので、大学は辞めて上京しました。
──東京の生活はどうですか?
もともとひとりが好きじゃないタイプなので、めっちゃホームシックになりました。最初のころは、3〜4ヶ月に1回は広島に帰っていましたね。今はだいぶひとりに慣れてきて、ホームシックになることもなくなりました。
──いま声優アーティストとして活動をしていて、やりがいを感じる部分はどこですか?
いろいろありますが、役に命を吹き込ませてもらえることが本当に楽しいです。その子たちの一番の理解者でいたいと思いますし、その子たちのことを考えている時間もすごく幸せな時間ですね。あとは、 やっぱり小さいころからパフォーマンスをすることが大好きなので、ステージに立っている時間は、自分のことを一番好きでいられる時間だなって思います。
──アニメも観るようになりましたか?
はい! それこそプリキュアを歌わせていただくようになってからは、観れていなかったシリーズはほぼ観ました。ステージに立ちたいという思いが強かったので、憧れていたラブライブ!シリーズを観たりとか。いまはほかにもいろんなジャンルのアニメを観るようになりました。
──ラブライブ!シリーズのライブステージも見ましたか?
実はライブステージを観たのがはじまりでした。そのときの感動が忘れられなくて、アニメを観はじめてラブライブ!シリーズにどっぷりハマりました。
プリキュアがすべてのはじまり
──放送中の「デリシャスパーティ♡プリキュア」(2022)で前期エンディング主題歌「DELICIOUS HAPPY DAYS♪」も担当していますが、これまでのお仕事で吉武さんのターニングポイントになったことはなんですか?
やっぱり「スター☆トゥインクルプリキュア」(2019)のエンディング主題歌を担当させていただいたことですね。デビューもプリキュアですし、そこがすべてのはじまりです。 自分も観ていた作品だったので、決まったと聞いたときはビックリしすぎて言葉が出なかったです。世に発表されるまでの期間は、スタッフさんからのおめでとうLINEを何回も見返さないと現実だと思えないぐらい夢みたいでした。
──反響も大きかったですか?
そうですね。それこそASHのキッズクラスの子がオーディションで、私の歌っている楽曲をやってくれている動画をもらったり、保育士として働いている大学時代の友達から「プリキュアグッズを持ってる子めっちゃいるよ」と連絡をもらったりするのも、すごくうれしかったです。
──そして「ラブライブ!スーパースター!!」(2021)では、Sunny Passionの聖澤悠奈役を担当しています。
ラブライブ!シリーズは本当に憧れだったので、決まったときはめちゃくちゃうれしかったですし、がんばらなきゃって思いがすごかったです。
──ステージでのパフォーマンスもありますからね。
そうですね。ステージに立っているときは、悠奈と一緒に立っています。動きだったり歌声だったり、悠奈だったらこうするだろうなって考えながらパフォーマンスを作っていくという部分は、いままでにない感覚ですね。
──昨年からは、声優の礒部花凜さん、熊田茜音さん、堀内まり菜さんとともに、コーラスユニット「ヒーラーガールズ」としての活動もはじまりました。
基本的にずっと歌っていて、メロに行ったり、ハモに行ったり、コーラスをしたりっていうのは、ヒーラーガールズになるまで経験しなかったことですし、それぞれみんな持っているものも大きいので、すごく刺激をもらえています。
──どんな仲間ですか?
本当にみんな歌が上手で、はじめて合わせたときから聞こえてくるまわりの音がすごすぎて「がんばらなきゃ!」ってめちゃくちゃ思いましたし、みんなで高め合える存在だと思います。ただ、歌っているときと普段のギャップがすごいってスタッフさんには言われます(笑)。YouTubeチャンネルの動画を見てもらったらわかるんですけど、本当にわちゃわちゃしています。
ASHでの経験にムダなことはひとつもない
──これからの目標を教えてください。
声優としていろんな作品に出演させていただけるよう、これからもがんばります。そしてソロアーティストデビューすることが夢なので、それを叶えられるようにもっともっとがんばっていきます!
──吉武さんは、ASHの生徒にとっても声優アーティストという新しい道筋を開いてくれた存在なんじゃないかと思います。
そうなっていたらうれしいですね。 私自身、ASHに行っていなかったら、いまこうして活動できていなかったと思います。歌やダンスはもちろんですが、礼儀などもたくさん教えてもらえたことは、ASHに行っていて本当によかったなと思うところです。
──いまがんばってる在校生の方にメッセージをお願いします。
悔しい思いもめちゃくちゃするだろうし、楽しいこともいっぱいあるだろうし、いろんな経験ができる場所だと思うので、何事にも全力で向かってほしいです。ASHで学んだことはすべてが種になると思うし、ムダなことはひとつもないと思います。応援しています!
撮影=石垣星児
執筆=森野広明