出会いたい才能、求められるアーティスト|アミューズ新人開発担当×アクターズスクール広島

出会いたい才能、求められるアーティスト|アミューズ新人開発担当×アクターズスクール広島

芸能界ではどのような人材が求められているのか?

アクターズスクール広島(ASH)の生徒たちが送るきびしいレッスンの日々は、もちろんデビューの夢をつかむためにある。では、彼女たちは何をすべきなのか。

ASHのプロデューサーで事務局長を務める南典秀氏を聞き手に、ASH卒業生のPerfumeやSU-METAL(BABYMETAL)、戸高美湖さくら学院)などが所属するアミューズの新人開発室室長である杉浦秀和氏に話を聞いた。

[PROFILE]
杉浦秀和
株式会社アミューズ第6マネージメント部新人開発室室長。2003年の入社後、福山雅治、寺脇康文、平岡祐太、岸谷五朗、上野樹里、富田靖子などのマネージメントを歴任。現在は新人開発室の室長として、新人の発掘や人材育成を担当している。

アミューズにとっても、PerfumeやBABYMETALの存在は大きい

──杉浦さんはいまアミューズさんの新人開発室の室長を務められていますよね。

2003年度に新卒入社してから15年間マネージメントをしてきたんですが、去年の4月1日から新人開発室室長に着任しました。なので、新人開発に関してはまだまだ新人です。

──はじめてお会いしたのは、去年の秋の発表会前でしたね。

夏前くらいですか。私どもの行事とかぶってしまって、発表会にはまだ伺えてないのですが、春も秋もスタッフが行っていろいろ話を聞かせていただきました。

──今回は20周年メドレーと称して、ASHを卒業して活躍されている方の楽曲をカバーしたんですけど、はじまりはPerfumeでした。アミューズさんの40年の歴史の中では半分にも満たないかもしれませんが、やっぱり私たちにとってPerfumeは1期生で、ここが原点なんですよね。

20th ANNIVERSARYメドレー「2019 SPRING ACT」フォトレポート中編(写真18枚)

20th ANNIVERSARYメドレー「2019 SPRING ACT」フォトレポート中編(写真18枚)

2019.07.01

正直、昔のことはあまりわからないのですが、私の印象としては、いろいろなところとお付き合いがあるなかで、ASHさんは特に長く継続させていただいている大きなスクールという感じなんですよね。ただ、そもそもうちのアーティストを過去に輩出してくださった学校というのは本当に限られていて、いまも活躍しているPerfumeやBABYMETALの存在は大きいので、今後もしっかりと関係を構築していきたいと思っています。

──ありがとうございます! 私どもとアミューズさんの関わりをひも解いていくと、かなり古い話になってきますよね。

いま私がいる第6マネージメント部のスタッフたちが関わる前の話なので、歴史としてはかなり前ですよね。弊社のいまの幹部に近いような人たちが、そのころに話を進めていたと思います。個人的にPerfumeについて印象に残っているのは、引っ越しの手伝いをしたことですかね。彼女たちが中学2年生の時に上京してきたのが、僕の入社年と一緒だったんですよ。当時「BEE-HIVE」という女子寮で共同生活を送る女性のダンス&ボーカルの育成プロジェクトがあって、Perfumeはその1グループだったんです。新入社員だったときに、入寮のお手伝いをしました。

──意外なところでつながってましたね。

「そのダンボール私のです」みたいな。東京に来たてで本当にほやほやな感じでしたね。BABYMETALくらいのころには、ASHさんから「優秀な子がいるよ」とお話をいただいて見に行かせてもらうような関係を築いていたと聞きました。それは、すごくありがたいことです。

開発担当の熱量がなければ、アーティストを売ることはできない

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ASH事務局長 南典秀

──アミューズさんなりの発掘目線ってあるんでしょうか?

「どういった新人を探していますか」とよく聞かれるんですけど、会社として「こういう人」という指針のようなものがないのが、たぶんうちの特徴なのだと思います。いい意味でマネージメント側の人間たちの自主性が認められていて、それぞれのマネージャーがそれぞれの目線で「こういう新人をやりたい」という考えを持っているので、新人開発の僕たちがそれぞれの話をヒアリングしつつ、その情報も頭に入れながら人材を探しています。だからこそ、他社さんよりも幅広く見させていただいて、“これ”という子を探していると思います。

──たしかに、アミューズさんの場合は「あの子もこの子も」という感じではなく、その子に対する担当者さんの「思い入れ」や「熱」を感じます。

結局、担当者レベルで熱量を持てないとそのアーティストを売ることはできないし、いい結果には結びつかないと思うんです。会社に言われたことではなく、それぞれがやりたいイメージを実現させようとしていることが、うちのアーティストマネージメントのパワーになってるんじゃないかと思います。

──いまはネットが普及してエンターテインメント自体がすごく広がりました。発掘に関しても、何か変わったことはありますか?

SNSで個人が自己表現や発信をできるようになったので、出会える場所、見つけられる場所はすごく増えたと思います。でも、SNSの普及は、人の手を借りなくても自己表現できる場所を増やしたとも言えるので、自分で表現ができる人にとっては、今後は僕らが選ぶ側ではなく選ばれる側になっていくのかなとも思います。表現できる人がパートナーとして一緒に仕事したい事務所を探していくような時代になりつつあるのではないでしょうか。

──スクールをやっていると、どこまでSNSで発信させていいものか悩むんですよね。昔は、ヘタにいろんな過去を残さないほうがいいというスタンスでやっていたんですけど…。

でも「やりたい!」と思ったら簡単にできてしまうから、それは止められないですよ。スマホだけで歌や演奏が録れて、世の中に発信できる。そのハードルが昔に比べて下がったことはいいことだと思います。

──昔の感覚だとは思いますが、あまり素材としてすり減らすのはマイナスになるんじゃないかとも思ってしまうんですよね。

それまで何をしていたかというのはそれぞれの自由ですし、自分の演奏動画をYouTubeに上げたくてはじめた子と、路上で弾き語りがしてみたくてはじめた子は、場所が変わっただけでそのモチベーションは変わらないと思います。

レッスンの質と量をこなしているのは、世界では当たり前

出会いたい才能、求められるアーティスト|アミューズ新人開発担当×アクターズスクール広島

──プロを目指す子どもたちに向けて、アドバイスできることはありますか?

PerfumeやBABYMETALのように海外でライブができるアーティストも出てきてはいますが、BTS(防弾少年団)のように世界のチャートをにぎわせている人たちはまだそういません。私たちは育成もやっているので海外の事情について聞くこともあるのですが、特に韓国のアーティストは圧倒的な質と量をこなしています。そういう意味では、ASHさんのように若いうちからさまざまなレッスンプログラムを経験できることは非常に貴重なので、ひとつひとつのレッスンや授業を大事に取り組んでほしいですね。

──やっぱりレッスン量も違いますか?

違いますね。特に韓国はぜんぜん違うと思います。そういうトレーニングを何年間もやっていれば、当然レベルは上がるだろうし、さらにその中から選りすぐられた子たちがデビューするのであれば、世界で勝負もできるのかもしれません。

──受験期には練習量が減ったりしますし、私たちにとっても直面する問題です。親御さんたちは勉強もすごく大事にしていますから。

そうだと思います。日本は勉強を絶対に大事にしているし、そうあるべきだと思います。全員に将来が約束されているのであればいいですが、決してそうではないので。

──事務所に所属していても、学業は優先されますよね。

うちはそうですね。親御さんの方針や本人の意志もありますけど、未成年の子たちには「学業優先」とよく言っています。そこはやっぱりおろそかにしちゃいけない。

──「アミューズキッズ」さんや「さくら学院」さんもそういった方針ですか?

そうですね。特にあの世代の子たちは学生というだけでなく義務教育期間でもあるので、よりその色は強いですね。そこをちゃんとすることはその子の将来のためでもありますし。

芸能の仕事が魅力的なものだと、もっと伝えていかなければいけない

──話は変わりますが、ASHはこれから演劇に力を入れていきたいと思っているんですよ。

それはすばらしいですね。ダンスや歌、特にダンスは学校教育にも入ってきて人口がすごく多いじゃないですか。指導者も全国的にレベルの高い方たちがたくさんいるから、レッスンも作りやすいんです。でも、演技やアクティングというと教えられる人が極端に少ない。それはいろいろなスクールを見学したり、いろいろな人たちと出会っていくなかで私も感じていましたね。

──本気でお芝居に取り組むことで、チャンスも広がるんじゃないかと感じています。

新人開発をやりはじめて感じているのは、芸能界という場所が、私たちが子どものころに感じていたような憧れの業界ではなくなっているのではないかということです。IT業界やYouTuberのように、私たちが子どものころにはなかった魅力的な業種が増えて、出会いたい才能がこちらへ来てくれなくなっているし、これからも減り続けるかもしれない。だからこそ、この業界の仕事はすごく魅力的で、人に夢を与えられるすてきな仕事なんだということを伝えていきたいんです。新たに演劇を教える場所ができれば、子どもたちがこの世界を目指そうと思うきっかけにもなるし、そういう動きが全国各地でたくさん起こったらいいなと思います。そのために、私たちで何かできることがあればぜひ協力していきたいですね。

──ありがとうございます! スクールに来てくださる各事務所の担当者の方々はすごく熱いんですよね。エンターテインメントを本気で仕事にするというのは、こういう熱があるんだということを、一般の方や、保護者の方々、子どもたちに少しでも伝えられたらうれしいなと思います。


撮影=時永大吾
執筆=森野広明

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