世界に名だたる多くのアイドル&アーティストを輩出し続ける、アクターズスクール広島(ASH)。
地方のいちスクールが、なぜこれだけ多くのスターを産み出すことができるのか。
謎に包まれた現代アイドル虎の穴、その秘密を運営スタッフへのインタビューで解き明かす。
夢を持つことが入学条件
高橋富美俊(たかはし・ふみとし)プロデューサー
TSSプロダクション所属。スクール設立に携わった創立メンバーのひとり。
生徒や親と細やかな面談をし、在学中より進路などを提案。全国の芸能プロダクションとのパイプ役として、人材育成からタレントの売り込みまで包括的に担当。
「夢を持ってきなさい」と、いつも生徒たちに言っているんです。
塾感覚ではダメなんです。これから芸能界というものすごく激しい波のなかに入っていくわけですから、自分の意志を持っていない子では成長できない。
それは、成功した先輩たちの共通点でもあります。
どんな小さな夢でも目標でもいいから、しっかり持っていてくれれば、その夢に対してASHは全力でサポートをしていきます。
それは、入るときから持っていてもいいし、途中で芽生えたっていい。もちろん、変わってもいい。
でも、常に心に持っていてほしい。
ASHは歌とダンス以外にも、モデルや演劇、そしてアナウンサーを招く教室もあるので、アイドルになる夢を持ってスクールに入ってきたけれど、出口はモデルや女優などになることもあります。
私はそれでもいいと思っていますし、それがASHが存在している意義でもあると思うんです。
子どもたちを受け入れて育てていくということは、はじめからずっと変わりませんが、いまはエンターテインメント業界自体が広くなっているので、視野を広げて生徒の出口もいままでと違うものをどんどん提供してあげたいと思っています。
直近では、花岡なつみが「第14回 全日本国民的美少女コンテスト」の音楽部門賞を受賞して、今後はモデル兼歌手という位置づけになるかと思います。
事務所のオスカーさんは、モデルにも力を入れていらっしゃるというところがあるので、このような出口の作り方もあるのかと学びましたね。
本物になるために戦い続ける
「アクターズ“スクール”」という名前ですが、生徒たちは“学ぶ”というより、心身ともに“戦って”います。
半年に1回の発表会のステージに立つか立たないかは、毎回のオーディションで決まります。おのずと意識は変わってきますよね。
やる気も育まれますし、どうやったらうまくなるかを考え続けることで、目標へと行き着くサイクルが短くなるのだと思います。
経験値が高いから、若くして外に出ていける子が多いのかもしれません。
その流れに火をつけてしまったのは、やはり、Perfumeだと思います。
もちろんはじめから高いレベルでやっていこうという意識はありましたが、スクール内のハードルがどんどん高くなっていったのは、彼女たちの存在が大きいですね。
たとえば、ある事務所からアイドルグループのオーディションをするから、何人か候補を出してほしいとリクエストが来たとします。
そのとき「歌とダンスの資料はいらない」と言われることもあるんです。
「ASHさんだから歌とダンスは安心しています。なので、ビジュアルの資料だけください」と。
それは、卒業生が積み重ねてくれたうちに対しての信頼でもあるわけですから、そこを裏切ってはいけないという思いは強いです。
一方で、地方でもたくさんのアイドルが生まれているいま、昔に比べてデビューのハードルは低くなっていると思います。
ビジネスだからそれでも構わない、どんな形でも売れればいいのだとは思います。
ただ、私たちが考えるのは、見せて恥ずかしいものは出さないということ。
そこに対しては先生たちがみんな熱心なので、生徒もちゃんと成長してくれる。ASHは本当にいい先生に恵まれているなと思います。
スクールの舵取りは「成長第一」
いま、ASH卒業生からたくさんのアイドルが出ていますが、我々自体が事務所の機能を持つということはまったく考えていません。
確かにビジネスとしては有利になるかもしれませんが、そうなると、生徒の夢にこたえるという本分がおろそかになってしまいますから。
ASH内で結成されたユニットのSPL∞ASHはCDを出してはいますが、これは勉強の一環なんです。
CDを作ったら、次は売らないといけない。では、売るためにはどうしたらいいのか。
いまは誰でもCDが作れる時代だからこそ、このひとつひとつのプロセスを生徒たちに経験させて、成長してほしいと考えました。
誠意を持ってちゃんと行動をしていないと誰も拾ってくれない、誰も見てくれないんだということを、常に生徒たちには言っています。
ASHはあくまでも、夢への手助けをするスクールなんです。
[実力者がひしめく選抜ユニット SPL∞ASH インタビュー(写真29枚)に続く]
撮影=石垣星児
執筆=力石恒元、森野広明